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1985年秋(19歳)
----- 東京 -----
恋愛には興味がなかったが、結婚したいという考えはなくなっていなかった。
これまでも、結婚することを前提とした相手としか付き合わないと決めてはいたが、この頃の私は、相手を思いやるとか、相手を幸せにしたいとか、そういう考えは全くと言っていいほどになくなっていた。
普通の悪い男になったとでも言えばいいか。
フラれたことを理由にすれば何をしてもいいと思っていたわけではないが、勉強以外では、わけがわからないのも面倒なのも嫌だった。
あれ以来、私はすっかり来るもの拒まずの人間になってしまっていた。
いい寄ってくる相手には誰かれ構わずいい顔をしたし、去っていく相手には理由すら聞かなかった。
また、自分がいいと思う相手にも声をかけることをためらわなかった。
学校の文化祭があったときに、おそらくは上級生のクラスの出しものだったとおもうのだが、同じクラスの女の子が舞台に引っ張り出されて、男性となにかをやれと言われたらしく、イベントなので、キスしろとか、そんなにひどいことを要求されたわけではなかったのだが、相手に近づくのがとても嫌そうにしていて、ついには、舞台から逃げ出して泣き出してしまうということがあった。場の雰囲気は最悪になったが、主催していた方が強引すぎたのだ。
私は、彼女に、なにかとても惹かれるものを感じ、翌日には付き合っている人がいないなら自分と付き合ってくれないかと声をかけ、それから付き合うようになった。
彼女と付き合うようになってからは、他の人には興味がなくなったので、彼女以外の人とは全く会わなくなった。
これは、彼女を大切にしたかったとか、彼女に申し訳ないとかそいうこととは違う、ただ他の人が要らなくなっただけだった。
学校ではいつも隣の席に座って授業を受けたし、帰りには女人禁制の下宿にこっそりと入れていたりした。
彼女は好き嫌いがとてもはっきりしていた。嫌なものには露骨に嫌な表情を見せたし、文句もはっきりと言う人で、そういうところはとても気に入っていた。
彼女に特別な不満はなかったのだが、一緒にいる時間が長ければ長いほど、何かが欠けている、何かが足りないと感じるようになった。
彼女には結婚したいなどとは言ったことはなかったが、自分の中では、今の付き合いの延長にそれがあると思っていたので、その足りない何かを埋めようとして、彼女を苦しめるようなことを言い出すようになっていった。
私は彼女にこう言った。
「今のままではお互いにダメになる」
「ただ学校を往復し、下宿でこんなことをしているだけでは、何かもっと、やらなくちゃいけないことがあるのではないか」
彼女にはそう言ったが、「お互い」ではなく「私が」ダメになると思ったのだ。
同じ学校に居て、同じように講義を受けていても、大切だと思うポイントが全然違う、あらゆることの解釈が違ってきていたのだ。
「そうじゃない、どうしてわからないのか、先生はこう言ってたではないか」
私だけが、学校以外で色んなことをやりすぎていたことも原因にはあった。
そんな事を考え出すだいぶ前のことだが、ヒューマンギルドで一つの問題が起こった。
野田さんだったか別の人だったか覚えてはいないのだが、
「自閉症」は遺伝する可能性がある。
そう口にしたことに対して、参加していたメンバーから強烈な非難を浴びたのだ。
そんなことは、実証されているわけではない、「可能性がある」という言葉にはとても強い印象があり、自閉症の子を持つ親の未来もそうだが、親族までもが、子どもを作ることに影響を与えてしまうような発言だ。
この問題は、発言を撤回することでその場が収まったが、私にとっては他人ごとではなかった。
数日後に臨床心理の勉強会が終わった後で、このことを先生に尋ねてみた。
先生が自閉症の家族とも深くかかわっていたことは知っていたし、自分も療育プログラムを学んでいたので、自身の血友病の遺伝のことと、自閉症の子を持つ親が、「遺伝」というものとどう向き合っているのか、先生の見解を聞きたかったのだ。
先生は相変わらず、意味のない禁煙パイポを咥えながら、頭をポリポリかいて、なんか困ったなぁという表情を見せたが、ゆっくりと話を始めてくれた。
#血友病#心理学#ヒューマンギルド#アドラー心理学#遺伝#自閉症
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