病気と私 11 遺伝子

誤字脱字を含め本文のおかしなところは、随時修正していくつもりです。

お気づきの点などありましたら、どうかコメント欄で教えてください。

よろしくお願いします。


1977年~1978年

(小学5年生)


----- 遺伝子 -----

小学5年生の夏休み、私はサラミソーセージを手のひらの上で切って、左手の人差し指の付け根当たりを2㎝ぐらい切ってしまう。

大人が豆腐を切るときにやっているスタイルを真似たのだ。

というのも、近所の年下の子がうちに遊びに来ていて、その子の前で恰好を付けようとしてやったことだ。


サラミソーセージは、当時の私にとってはとても貴重なもので、病院で薄く切られたものが2枚ぐらい食事の時にた出ことで知った食べ物だ。

おやつとしては高価な物だったので、買ってもらうときもためらいながら買ってもらったのに、結局自分では食べれられなくなってしまった。


やったこと自体、浅はかなことこの上ない。

おかげで、2年連続で夏休み途中で病院に戻らなければならなくなってしまった。


少しリアルな表現になってしまうが、切れた場所から白いものが出てきてびっくりした。ものすごく慌てたが、遊びに来ていた友達には、格好つけついでに落ち着いて見せて、大丈夫だと言って、新たにサラミソーセージを切って渡し帰らせた。


何かで切った場所を抑えながら、祖母の所に行き事情を話した。


祖母は、近所でも器用で博学で有名な人だった。近所の子どもが足をくじいたというと、病院ではなく祖母のところに連れてきて診てもらうという感じだ。とげが刺さった、目にゴミが入ったとか、いろんな人が来た。

足をもんだり、何かの薬草みたいなものを付けて湿布にしたりと、とにかく

何でもできる人と思われて頼りにされる人だった。

それと、私は出血した時を除き、母親と寝ることは全くなく、物心ついた時からずっと祖母と一緒に寝ていた。

祖母は喘息もちで、発作が起こるたびに顔が紫色になるほどひどかった。

発作は、夜にしか起こらなかったので、私はそのたびに目が覚め起きて背中をさすっていた。


話を戻す

篠竹(しのだけ)を割ると竹屑のような粉が入っている節があって、その粉を止血用の薬として祖母は使っていた。

祖母は怒ることもせず、呆れることもなく、私の血だらけの手を見るなり、その手を握って外にあった水道の蛇口の所まで連れて行くと、血らだけになった手を水道水で洗って、ぎっちりと布で患部を抑え込んだ。

家の中に戻って止血用の粉を出すと、素早く布を外して血がにじんでくる前にその粉を傷口に盛ってガーゼを当て、その上から包帯をきつく巻いた。(ガーゼも包帯も、祖母が”さらし”で作ったものだ。)


祖母は、包帯を取ると圧迫が緩み血が止まらなくなるから、完全に傷口が閉じるまで自分で包帯を取ったりするなと言っていた。

その日の夜に両親が帰ってきて、父親にはひどく馬鹿にされたが、包帯に少し血が滲んで来た程度で止血していたため、そのままその日の夜は寝た。(父は私のことをよく馬鹿にはしたが、怒鳴り声をあげて怒ったりすることはなかっし、最期まで、一度も私に手を上げたことはなかった)


翌日、母が病院に連れて行くと言ったが、祖母は、せっかく止まっているのに余計なことをするなと言った。母は聞かずに私を病院に連れて行った。

私は、血が止まっている包帯をはがせば、固まった血ごと無理やりとることになるので、痛いのは当たり前だし、それがとても嫌だった。

病院では、消毒薬を上からかけてくれたが、固まった血がそんなに簡単に柔らかくなるはずもなく、結局無理やりガーゼを取られて痛い思いをした。

せっかく止血していた手の平から、じわじわと血が出てきた。


先生は、こんなものを付けていたら患部からばい菌が入って大変なことになるといって、茶色い消毒薬をつけてガーゼを当て包帯を巻いた。


病院から家に帰ってくるまでの間に、ガーゼを通り越して包帯まで血が滲んできた。

家に帰ってきたころには、そのままにはしておけないほど包帯が血だらけになってしまい、ガーゼと包帯を何度も交換しながら夜を過ごしたが、翌日になっても血は止まらなかった。

じわじわじわじわ、少量の出血が止まらないのだ。


篠竹の粉は、たぶん、虫が竹を食べた食べカスか糞だったのだと思うが、これまでに何度もこの粉を付けて切り傷を治してきていた。一度も患部にばい菌が入って膿んだということもなく、医師が心配するようなことは起こったことがなかった。

祖母は、「だから病院になんて連れて行くなと言ったんだ」と何度も何度も母を責めた。父も同じことを言っていた。

母は、医者にはそのままにして置いたら化膿すると言われたと反論したが、父も切り傷があると同じように治療してきて問題が起こったことなど一度もないと言い、血が止まらない以上、何を言っても母の話は聞いてもらえなかった。


※後になって理解できたことだが、血友病は、特別な人を除き、血小板は普通の人と同じようにあるため、外傷があると、かさぶたは普通にできるのだ。その段階で止血されれば、それ以上の出血はない。

しかし、血小板で止血した状態(かさぶたが付いている状態)から、内部で新しい皮膚ができる前に(傷口が閉じる前に)かさぶたを取ってしまうと、壁が何もなくなり、血が止まらなくなるのだ。


少しずつとはいえ、顔色が悪くなるほど出血してしまっては、そのままにしておくこともできずに、西多賀病院に連絡をすることになった。

連れて行くつもりで電話をかけただろうが、すぐに連れてきてくださいと言われて、私は病院に戻ることになった。


なにせインヒビターがあって、唯一の治療である血液製剤が使えない状態だったのだから。


病院に到着し、処置室に入ったら、主治医と、整形外科の先生の二人が病室にいて、処置が始まる前に主治医は部屋を出て行ったが、案の定、二人の先生から、なんて馬鹿なことする子なんだと、笑われた。

先生は、切ってすぐならあまり感覚もないから痛みは少ないけど、切ってからだいぶたつからちょっと痛いよといって麻酔の注射を打った。

ちょっとではなく、すごく痛かった。

私は、何も言わず、手を動かしたりもせずに、じっと我慢した。

4針縫った。


その痕は、今でも手のひらに残っている。


病棟に戻った私は、来る人来る人全員から、考えなしだの、馬鹿だの、自分の病気のことをわかってないだの、散々な言われようだった。

それもそうだろう、誰に言われるまでもなく、切った瞬間に自分でもそう思ったのだから。


病院に戻って翌日だったか、何日か過ぎていたか覚えてはいないのだが、手の処置をするためにナースルームに呼ばれ、隣にあった処置室に連れていかれた。


そこで、私は初めて自分の病気のことを知ることになる。


若い看護師だったのは覚えている。

私の手の治療をしながらこう言った。


「あなたの病気は一生治らないのよ」


薄々感じてはいたが、面と向かって言葉で言われると、なんと返したらいいのかわらかずに、言葉を失ってしまった。


一通りの処置が終わった後、その看護師は分厚い医学書を持ってきて、私の病気について書かれているページを開き、読んでみなさいと言って一緒に本を読み始めた。


そこには、「血友病は10歳までに死亡する」と書いてあった。

私は11歳だったので、それより1年も長く生きていたことになるので、すぐにこの本はおかしいと思った。

しかし、彼女は続けた。


「ここには10歳までに死亡と書いてあるけど、今は治療薬が完成したから、

あなたもまだ生きていられた」

「治療薬が出てなければ、昨年の自転車事故であなたは間違いなく死んでいた」

「あなたは、真剣に自分の病気と向き合わなくてはいけない」


言われても当たり前だと思った。

自分では、怪我をしないように、転ばないように、出血しないようにといつも気を付けているつもりなのだ。

それでも、こんなに馬鹿げたことをしてしまう自分が、とても情けなかった。


次に、医学書に書いてある「劣性遺伝」という言葉の意味を説明してくれた。

「あなたの病気は遺伝する病気で、あなたの子どもには血友病の子どもは生まれないけど、孫には血友病の子どもが生まれてくる可能性がある」

彼女は大きな紙に図を書いて遺伝のことを丁寧に丁寧に、私にもわかるように説明してくれた。


そして最後にこう言われた。

「あなたは、一生この病気を背負っていかなくてはいけない。だから、こんな怪我をするようなことは今後絶対にやってはいけない。あなたはあの本に書かれていた10歳までに死亡すると言われていた子どもと同じ状態だってことをちゃんとわかっていなくちゃいけない。注射は効かないんだからね」


そして、私の頭をなで、背中を叩いて処置室を出て行った。


彼女は、私が自分の病気を受け入れられると判断してくれたのだ。

馬鹿にすることなく真摯に話をしてくれた。

治らない病気だと言われたショックより

遺伝する病気だと言われたショックより

話せばわかってくれると思われたことがとても嬉しかった。


そして、この時「自分は、子どもを作ってはいけないのだ」とはっきりとそう思った。

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うさねこまったり

豪雪地帯の田舎に古い家を買い、うさぎとねこと暮らしています。 主な内容は、ウサギとネコの動画と、病気と付き合ってきた自分史になります。 動画は、Youtubeにアップロードした動画の紹介になります。 ※コメント欄はご自由にご利用ください。

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